スピントロニクスとは

スピントロニクス を理解するにあたり、はじめに原子や電子を考えましょう。
原子は原子核と電子により構成されています。電子には2つの自由度があります。電荷スピンです。電荷とスピンはそれぞれ電流と磁気の源です。

エレクトロニクスとは電子の電荷を制御する工学であり、半導体などが例として挙げられます。一方で、マグネティクスとは電子のスピン(磁気)を制御する工学です。これらの技術はコンピュータに用いられており、我々の生活に大いに役立っています。

スピントロニクスとはこの2つの分野を融合させた工学です。スピン(磁気)によって電荷(電流)を制御したり、電荷(電流)によってスピン(磁気)を制御することができます(図1)。

スピントロニクスを示す概念図
図1.スピントロニクス とは

スピントロニクスの主役 〜スピン流〜

上で述べたようにスピントロニクスとは「スピン」から「電流」を制御し、「電流」から「スピン」を制御する工学です。この技術の担い手となるのがスピン流です。スピン流とはその名の通り、スピンの流れのことをいいます。これを下記で電流と比較しながら説明していきたいと思います。

私たちの身の周りにあるエレクトロニクスは電流、つまり、電荷の流れによって制御されています。電荷自身それぞれスピンを持ちますが、電流全体としてある方向にスピンは偏りません。例を挙げましょう。実際の電流にはアップとダウンスピン、つまり、上と下を向くスピン以外にも他の方向を向くスピンがありますが、簡単のため、下記のアニメーションのように電流にはアップとダウンスピンの電荷しか持たないと仮定しましょう。

アップとダウンスピンしか持たないことから電流全体としてスピンを持ちません。それではスピン流はどのような流れなのでしょうか。

先ほどの極端な例のように、電流内にアップとダウンスピンしか存在しないと仮定しましょう。

この時、特定の物質内(主に白金Ptなどの重金属)では、スピン-軌道相互作用と呼ばれるスピンにかかる有効的な磁場によって、アップスピンはある方向へ流れ、ダウンスピンはそれと反対方向に流れ、電流の方向と垂直な方向にあたかもスピンの流れがあるように見えます。これをスピン流と呼びます。

スピン流は「電荷」の流れではなく、「スピン」の流れであることから電荷の性質を持ちません。つまり、スピン流を主役とするスピントロニクスは、超低消費電力デバイスの実現に繋がる可能性をもつ工学であり、世界中で研究が盛んに行われるようになってきています。

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